一、旅立ち

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とはいえ、それもクリスティンが3年の首都での騎士修行を終えてから、という事になっていた。素晴らしいが、あくまでもブラウ領内にしか興味の無い領内の生活の窮屈さと、納得のいかない結婚から逃れられるとあって、クリスティンは意気揚々と故郷を後にしようとしたのだが、両親から息子が挨拶に伺うと、カーサス領内に事前に連絡が行っており、きつく挨拶に伺うようにと旅立ちの際まで厳命されるに至り、クリスティンは春の日差しを恨めしく思う程に落ち込んだ気持ちで旅に出た。 それでも、旅とは不思議なもので、領内を供も無しで気ままに歩いていると、色々な事が上手くいきそうに思えてくる。それは、カーサス領を出るまでは、道が安全だからという理由からでもあった。望む望まざるとに関わらず、両者の間には、すでに協力関係が築かれ、中央からは監察が入っている。道中でブラウ家の嫡男が死ぬような事態は、少なくとも両者の領内においては避けたい筈だった。 だから、クリスティンは初めての旅にしては随分と気楽に旅をしている。鼻歌まじりに首都への道を行く、5つ下の花嫁を娶る事になる、若く美しい次期領主を、領民は歓迎し、行く先々で食べ物や衣類、その日の宿を提供してくれた。 そのような気楽な旅の後、遂にクリスティンはブラウ領を出る事になったのだ。 カーサス領とブラウ領の境は、ダーマという川が流れている。アルデハルの大地に倒れた神の涙が始まりと呼ばれる大河、ウルムの支流でもあるその川は、ブラウとカーサスが全面戦争に突入しなかった原因でもあった。 その険しく広い川幅のダーマの向こう岸にはカーサスの家紋である白い盾を掲げた旗の下に、数騎が控えていた。その後ろには、馬車も控えている。
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