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永代橋の方に去っていく志乃の後ろ姿を見送った後、短く一つ溜息を付いて、春次郎は空を見上げた。淡い水色の空に綿を薄く広げたような雲が掛かっている。
部屋住みの身分のまま志乃を娶ることは出来ない。まずこれをなんとかしなければならない。だが、幕府も諸大名も今は財政が逼迫していて生半なことで新しい禄など食めるものではない。何か特別な功でも無い限り春次郎が木村の分家を立てることはまず出来まい。他家への仕官となれば更に難しい。
時が経てばそのうち未来も開けてくるだろう。何の根拠もなくそう思っていたが、どうやら世の中そんなに甘くは無いようである。
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