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藤森はまだ不満そうな顔をしている。
平九郎は少しだけ気の毒になった。
藤森主税、決して悪い男ではない。陽気で豪快、下の者の面倒見も良く腕も立つ。ただ、少しばかり短気で意地っ張りなところがある。.
道場に足を踏み入れてから最初の篭手を打たれるまでの短い時間で、十兵衛は藤森の性格を見抜いたのであろう。大袈裟に痛がり、面と篭手を付ければ、藤森は意地になって胴を打ってくる。十兵衛はそう読んだ。いや、読んだと言うより、そう仕向けるためにわざと胴だけ付けなかったのだ。
いかに藤森の太刀筋が鋭くとも胴に来るとわかっていればよけられる。そうしてよけた後すかさず脛を打つ。これも、防具に竹刀の道場剣術では脛打ちに対する防ぎは稽古のうちに入っていなかろうというしたたかな計算に基づいている。
(先生の言う通り、面白い男だ)
平九郎の頬が自然と緩む。
実を言えば、道場での稽古に物足りなさを感じ始めていたのだ。
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