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三年前、二十四で皆伝を受けた時は稽古が楽しくて仕方が無かった。一つ剣を振る毎に自分が強くなっていると実感出来たからだ。だが、そうした充実感は徐々に薄くなり、ここ一年ほどはもう自分が強くなっているのかどうかほとんどわからない状態になっている。
自分の成長を実感できるほどの相手が居ない、という問題が大きい。実際のところ、今道場で平九郎の相手になるのは藤森だけである。その藤森にしても、本気で立ち合えばどうか?
三年前は藤森から三本に一本取るのがやっとであった。
だが今ならば。
(恐らく勝てるであろう。少なくとも三本に二本は取れる)
強がりではなく、素直にそう思う。だが、藤森に取って変わって師範代になってやろうという野心が平九郎にはない。入門したての頃から面倒を見て貰ってきた恩もある。今では藤森との稽古では無意識のうちに手控えるようになってしまっている。また藤森の方もそれを薄々察しているようで、稽古では平九郎を微妙に避けている節が有る。
そうした閉塞感の中で、十兵衛は平九郎にとって新鮮な風であった。
何しろ一筋縄ではいかない男である。何をやってくるかわからないという緊張感が有る。
この緊張感こそが、平九郎が今、渇望して止まないものであった。
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