<2>

4/6
前へ
/13ページ
次へ
その日の業務をなんとかこなし、裏口を出ると、そこには彼がいた。 「こんばんは」 私が挨拶すると、彼は驚いたように振り返り、そして笑った。 「ああ、びっくりした。こんばんは」 「今、終わりですか?」 私は原付バイクを押して、彼に近づいた。 柔らかく笑う彼は、どことなくゴールデンレトリバーに似ていて、私は途端に好感を持った。 「うん、えーと。ごめんね、何さんだっけ?」 「あ、ごめんなさい。加藤です。三ヶ月くらい前に新しくバイトにはいった」 自己紹介をすると、彼は大きく一度、首肯した。 「そうなんだ、山田です。よろしくね」 辺りは日が落ち始めている。 彼の顔に降る陽射しは、オレンジで、表情をより優しげに見せていた。 これが、黄昏時の魔力かと思った。 少し垂れた目尻も、あがった口角も。その落ち着いた雰囲気に添っているようで。 仕草も喋るテンポも、全て心地よく響く気がした。 日が落ちるように、恋に落ちてしまう予感みたいなものがして、私はいやいやと、その考えを打ち消した。 だけど、私はきっとこの人を好きになるのだろう、と思った。 必ず日が落ちるように。冬の日暮れのように急激に。 .
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加