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その日の業務をなんとかこなし、裏口を出ると、そこには彼がいた。
「こんばんは」
私が挨拶すると、彼は驚いたように振り返り、そして笑った。
「ああ、びっくりした。こんばんは」
「今、終わりですか?」
私は原付バイクを押して、彼に近づいた。
柔らかく笑う彼は、どことなくゴールデンレトリバーに似ていて、私は途端に好感を持った。
「うん、えーと。ごめんね、何さんだっけ?」
「あ、ごめんなさい。加藤です。三ヶ月くらい前に新しくバイトにはいった」
自己紹介をすると、彼は大きく一度、首肯した。
「そうなんだ、山田です。よろしくね」
辺りは日が落ち始めている。
彼の顔に降る陽射しは、オレンジで、表情をより優しげに見せていた。
これが、黄昏時の魔力かと思った。
少し垂れた目尻も、あがった口角も。その落ち着いた雰囲気に添っているようで。
仕草も喋るテンポも、全て心地よく響く気がした。
日が落ちるように、恋に落ちてしまう予感みたいなものがして、私はいやいやと、その考えを打ち消した。
だけど、私はきっとこの人を好きになるのだろう、と思った。
必ず日が落ちるように。冬の日暮れのように急激に。
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