0人が本棚に入れています
本棚に追加
私と山田さんの関係がわずかに動き出したのは、初めての会話から二ヶ月が過ぎた頃だった。
12月も半ばになり、その日は雪が降り積もっていた。
朝礼を終え、店のシャッターを開ける。
外は寒く、私は軍手をつけて作業を続けた。
全てのシャッターを開け、支柱を外す。
隣の店舗でも同じ作業をしていた。
「おはようございます」
かけた声に反応したのか、顔が覗く。
それが、山田さんで、私は驚いた。
「おはよう、加藤さん」
青い上着を着て、作業する山田さんの顔は、寒さにか、それとも重労働にか紅潮している。
「今日も寒いですね」
次々と開店作業を進めながら、私はできる限り話しかけた。
そうしたくて、仕方なかった。
こんな浮ついた気持ちは、21年間感じたことはなかったはずだ。
そう思い至ると、顔が熱くなって
、だけどそれも寒さのせいにできた。
「ほんと寒いよね。僕寒いの苦手でさ」
「私も苦手です。冬は着込めばなんとかなるって皆言うけど、私は夏のほうが好きです」
思わず饒舌になる感情を抑えて、なんでもないふうを装うのは、意外と難しい。
浮上しては、また押し留める心は、まるでブランコに揺られるようだ。
お腹の下あたりが、ふわりとする。
「加藤さんって、今いくつなの?」
最後の支柱を取り外しながら、彼が言う。
「私、21歳です」
そう返答すると、「あ、同い年なんだ」と彼が言った。
その表情はどこか嬉しそうで、私はまたせわしくなる。
.
最初のコメントを投稿しよう!