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物事は、そう期待どおりには進まない。
こと恋愛においては。
理解しているはずなのに、聞く耳を持たない感情を、誰か叱ってくれないだろうか。
「そういえば、山田さんって、しばらくいなかったですよね?」
途切れた会話を繋げようと、私は話題を捻り出す。
今ここで会話が終わると、きっと途切れてしまうものはそれだけじゃない。
雪が途中で降りやめば、それは積もることなく、無残に溶けてしまう。
つまり、そういうことだ。
私たちの作業は、店先の雪かきに移っていて、彼は一旦手を休めて頷いた。
「バイクの事故で腕が折れちゃって。山道の下り坂で、思いの外スピード出て曲がり切れなくて、そのまま」
「そうなんですか。その程度で済んで、本当に良かった」
二の句が繋げなくて、私は黙々と雪を外へと追いやった。
彼に背を向ける形だから、山田さんが何をしているかはわからない。
ただ、シャベルの音はもうなかった。
近づくこともできないのに、離れられると淋しいなんて、どうかしている。
こんな、子どものような、駆け引きも何もない、否定するだけの恋愛感情は、不毛だ。
まだ、小学生のほうが素直だ。
私は、彼への好意を意固地になって認めようとしない、それだけの頑固な大人なんだろう。
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