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 彼の部屋は、物で溢れていた。 どこか繊細な雰囲気を醸し出す人だったから、部屋に入ったときの驚きがなおさらだったのかもしれない。 足の踏み場もない部屋、というものを、私はこのとき初めて見た。  「どうぞ、座ってて」 促されるものの、どこに座ればいいのだろうか。 椅子の類いは、あるにはある。 しかし、座れる状態ではない。  そうして悩んでいると、彼はひょいひょいと隙間を縫ってベッドに上がった。 上に散らかる本を隅に寄せると、彼は「どうぞ」と微笑んだ。 「ありがとう」 物を踏まないように、ベッドに近付く。 それだけで、かなりの重労働のように思えた。 「それにしてもすごいね」 私が言うと、彼は困ったように苦笑した。 「ごめん、片付けようとは思うんだけど、なかなか」 「いやいや、そんなわけじゃないんだけど、何て言うか、他趣味なんだね」 「うん」 そんな話をしながら、彼はバタバタとせわしなく動いている。 少しすると、「ちょっと待ってて」と言い残して、部屋を出ていってしまった。 .
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