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クローゼット上部の棚には、小さな筒(きっとドラムの一部だ)。
フローリングの床にも恐らく楽器だろうものが、いくつも置かれている。
「あ、何か曲をかけるよ」
そう言って立ち上がる彼を少しの間見届けた私は、再びドラムに目を向けた。
たしかに、私の知るものとは少し様相が違う。
叩くべき円柱型の筒はなく、代わりにそこには黒い円盤が収まっていた。
こんなもので、本当に音が出るのかと不思議な気分になる。
タイヤのような黒い円盤。そこにはへこみや白い傷があって、やはり彼はこれで練習しているのだと知ることができた。
「私、楽器や音楽は高校卒業してから触れ合ってないかも」
街角で流れる曲に、わずかに心惹かれることはあっても、それをわざわざ調べたり、CDで買ったりすることはなかった。
労力を払うだけの興味が、私は音楽には向かないのだ。
しかし、この部屋は、この部屋の主はどうだろう。
きっと彼の興味は、私には薄いそれに向いていて、常日頃音楽のある環境が、彼の日常なのだ。
雑談をしている間も、彼の両手は動いていた。
レコードプレイヤー(部屋にはミニコンポもあったが)の蓋を持ち上げると、そこにレコード盤をセットする。
針を取り付け、レコードの上に落とす。
放送部室のマイクがはいるときのようなノイズ。
私の心にも、時々こんなノイズが雑じることがある。
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