35人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ
――七年前――
1996年 4月1日
「今日からここで働かせて頂きます、澤見友里です。ナースとしては三年目、まだまだ勉強中の身です。皆さんご指導の程、宜しくお願いします」
ナース室で自己紹介をする澤見。元いた東郷大学医学部附属病院からここへ転任してきた、初日。少しの緊張と新規一転で頑張るぞという気合が入る。
平常通り業務連絡を終わらせた後、澤見は主任に呼ばれた。
「澤見さん、いいかしら?」
「はい」
「作業自体は変わらないと思うので、まずは場所ね。じゃあここからは増田君お願いできる?」
主任の小林はそう言うと、机でカルテに目を通していた一番手前の男性が『はいっ』と元気良く立った。
「増田五郎です。宜しく」
がっしりした体格とは似合わない優しい笑顔で握手をしてきた。
「見た目は怖いけど、優しいわ」
「主任、見た目が怖いとか‥‥‥要らないです」
「あら?だって、よく子供に泣かれるし、あだ名は熊だったっけ?」
「熊五郎ですよ、主任」
後ろの方に座っていた女の看護師が付け加えた。
「ぷっ」
澤見は思わず笑ってしまったが、すぐに顔を戻した。
「もう、みんなして僕をいじめないで下さい‥‥‥」
「冗談よ。ほら、澤見さんに色々教えてあげて」
小林に話を戻され、増田は澤見を見た。
「じゃあとりあえず、こっちから」
三階のナース室を出て院内を回りながら簡単な説明をする増田。小児病棟は裏返ししたL字のような形をしていて、廊下を真っ直ぐ見渡せる。ナース室は個室部屋が近く、救急の頻度が高い患者程近くに割り振ってあって、些細な事でもすぐに駆け付けられるよう配置されている。
「ここは患者さんの休憩室で、ここがプレイルーム‥‥‥」
プレイルームは広々としていて、子供たちが何人か遊んでいた。その隣の扉、シーツや枕カバーなどの主に寝具が入っている棚の説明になり、増田は扉を勢い良く開けた。
「きゃっ!」
澤見は驚いて叫んだ。続いて増田も声を張り上げた。
「何やってんですか!」
紺色の丸帽子から覗く長めの黒髪、白い顔に赤い口、丸い鼻の白衣を着たその化け物は口に人差し指を立て、シッという格好をしている。
後ろから子供たちの声が聞こえ、澤見、増田、白い物体の順に音のする方を見ると、一人の子が叫んだ。
「あ!ピエロ見つけたぁ!」
最初のコメントを投稿しよう!