帰 途

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 だが気付けば、ピエロの後ろには三人の子が付いて来ていた。  菜乃香もその中の一人。くまのバルーンを両手で大事そうに抱えながら、大きく目を輝かせてピエロの傍を離れようとしない。  どうやらバルーンをくれた白いそれを気に入ったようだ。 「あー、光輝(こうき)君に順平(じゅんぺい)君、それに菜乃香ちゃんまで!」  後ろから声がし、子供らはびくっと反応して振り向いた。澤見に見つかり三人とも、でへへと笑って誤魔化(ごまか)した。 「こーら、ピエロさんの邪魔になっちゃうでしょ。ほら、あっちでアメもらえるよ?アメ」  アメがもらえると聞いて、男の子二人はプレイルームに走って戻った。けれど、菜乃香はまだピエロの(そば)にいる。 「ちがうの。だって、あのね、いつもとーま君に‥‥折り紙教えてあげてるの。今日も約束したの。だから‥‥‥」  菜乃香は一度言い出したらきかない。基本的に元気でいい子なのだが、彼女のそこには澤見も度々手を焼いている。  困った顔で澤見はしゃがみ何かを言いかけたところで目の前の菜乃香が消えた。ピエロが菜乃香を両手で抱き上げたのだ。 「わ‥‥」  急に遠のく地面に驚く菜乃香。暫く辺りを見回すと今度はキャッキャッと喜んだ。そのまま連れ去ろうとするピエロに澤見は声をかけた。 「でも、かん‥‥‥いいんですか?」  ピエロは一度振り向き、少し首を傾けるとナース室を越えて、菜乃香を抱いたまま直進した。 「とーま君!」  個室ベッドで本を読む男の子は声のする入り口を見た。 「っ‥‥‥」  ピエロに抱かれて登場した菜乃香に対してか、ピエロに対してか、男の子は驚いて固まった。 「斗真(とうま)君、ピエロさんが遊びに来てくれたよ♪」  その後ろからピエロ通訳の澤見が顔を出した。途端に斗真は笑顔になった。  今年で小学四年生になった斗真。だが重い心臓病で血液の流れが悪く、身体に栄養が行き届かないために一年生の菜乃香より小さい。補助人工心臓の装着で命こそあるものの、呼吸器は外せず、歩く事もできず、一日中をベッドの上で過ごしている。  菜乃香は降ろしてというように身体を揺するとピエロが腕を解き、足が地面に着いた。降りた勢いで斗真のベッドの横に慣れたように座った。
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