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「もう大丈夫ですよ‥‥‥」
声をかけようとも身を震わせるだけだ。
ガチャッ
ドアを開ける音でさえも、彼はびくっと反応する。
「様子はどうですか?」
入って来たのは女性医師の一ノ宮だ。澤見は彼女を見て頭を横に振った。
「意識は戻った?」
「はい‥‥ですが、何の言葉にも反応しません。反応するのは身体だけ‥‥」
一ノ宮は徐に神戸の掛け布団をバッと剥ぐと彼は条件反射のように頭を腕で覆った。
無言のまま布団を戻し、一ノ宮は溜め息を吐く。
「思ったより、重症ね」
彼女はゆっくり下がり、もう一つのベッドに腰掛けた。
「とりあえず‥‥一人にしといた方がいいんじゃないかしら?あなたも他に仕事あるでしょうし」
「はい‥‥でも心配です」
「巡回時にここもチェックするよう伝えておけば、この状態じゃそう動けないでしょうし」
「はい‥‥そうですね」
それでも心配そうに澤見は神戸の方に目を向けた。
「何?好きなの?」
突然の一ノ宮の言葉に澤見は勢い良く振り返った。
「何、言って‥‥るんですか!」
その声に神戸がびくっと反応した。澤見はそれに気付き、今度は小声で返した。
「こんな時に‥‥変な事言わないで下さい‥‥‥」
悪気のない様子で一ノ宮は続けた。
「だってあなた、急に神戸先生の前に飛び出してくるから。下手したらあなたの方が大怪我していたかもしれないのに」
「あ、あれは‥‥‥」
「我が子を失って怒り狂っている人に近付く事自体、間違いよ。相手がこっそり刃物でも持っていたら、どうするの?」
澤見はその言葉に顔を顰めた。
「‥‥まさか、わざと見ていたんじゃ‥‥‥」
「何言ってんの。一応止めようとしてたじゃない。それに殴られて負傷したとなれば、裁判になった時有利になるわよ」
毅然とした態度で一ノ宮は語る。
「止めようとしただけで止めなかったんですか?」
澤見の問いに当然というように一ノ宮は頷いた。澤見は思わず感情が先走った。
「そんなの、酷くないですかっ!」
一ノ宮はびくっと反応する神戸を見てから、鋭い目を澤見に向けた。
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