フラッシュバック

5/11
前へ
/260ページ
次へ
※※※※ それからどのくらい経ったのだろう。 仮眠室に澤見の姿はなく、外はもうすっかり明るくなっていた。 神戸はふと包まっていた布団を剥いだ。 まだ恐怖で震える身体で起き上がり、ベッドの下にあった靴に足を入れた。 小刻みに揺れる手で、なかなか()けない靴に苛立ちを覚えた。 「ぐっ、そっ‥‥」 神戸は自分の不甲斐無(ふがいな)さや馬鹿さ加減といったものに苛立っていた。 そして自分を責めていた。  どうして僕はいつもこうなのだろう。本当にどうしようもない‥‥‥。 やっとの思いで靴を履き、立とうとすると今度は足が(もつ)れて転んだ。  ダンッ! 「ぐっ、う‥‥」 床に身体は叩き付けられ、痛さと色々な感情から神戸は涙を流した。  どうして僕はいつも‥‥‥。 そんな自分が情けなくて、悔しくて。声を押し殺すように彼は独り静かに泣いていた。 昔‥‥‥幼い頃、泣くと親にうるさいと怒られた。そこからの習性で彼はひっそりと泣くという事を覚えた。 誰にも気付かれないよう、自分の感情全てをそこに溶かして流し出す。 彼にはそうする事しかできなかった、そうする事で平然を装うしか術がなかった。 学校でも家でも罵られ、誰も助けてはくれない中で、それは勝手に身に付いた。
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加