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やっとの思いで上体を起こすとベッドに寄り掛かるよう床に座った。
今の転んだ衝撃でベッド柵に掛かっていた白衣が床に、すぐ左脇に落ちた。
神戸は手で、震える手で縋り付くように白衣を掴んだ。ズズッと引き摺り、両手でそれを抱えるようにして持った
白衣のポケットを探ると小さいポーチのような袋を取り出した。彼は徐にそれを開け、中身を確認した。それは化粧道具だった、ピエロ用の。
小さく四角い手鏡を取り出し、自分の顔を見た。そっと顔を手で触ると、頬のガーゼをビッと勢い良く剥がした。
そして次に眼帯を引っ張って外し、目を覆っていたガーゼも取り、恐る恐る顔を触るとズキッと痛んだ。
鏡を左手で持ち、ゆっくりと覗くと腫れ上がった自分の顔が見えた。
醜い、醜い、醜い。これが本当の僕なのだろうか?だとしたら、みんなが僕を気味悪がるのは当然だ。みんなが僕を嫌うのは当然だ。どうして普通の人間に生まれなかった?僕がいるからみんな笑わない。僕がいるからみんな苦しむ。みんな僕のせいだ‥‥‥。
神戸は鏡を一度床に置き、ポーチの中から白い絵の具のようなチューブを取り出した。
チューブの蓋を外したが、震える手が蓋を掴みきれずベッドの下に転がった。
彼はそれを目で追ったが取る気はなく、ポーチから白いパフを出してチューブから出る白い塗料をパフに付け、そのパフを顔に付けた。
「っ‥‥‥」
白いそれが顔に染み込むように痛む。だがそれは冷たく、腫れ上がった火照る肌には心地好く感じた。
床に置いた鏡を左手で持ち、右手のパフをそのまま動かした。紫色だった額も頬も、赤くなった目、唇も、見る見るうちに白くなった。
顔全体が白くなった自分を見て彼は笑った。
白のチューブを床に置き、続けて赤いチューブを取り出し、今度は筆に付け、鏡を見ながら口元に付けた。
次に青のチューブを、黒のチューブを、慣れた手付きで顔に描き込んでいくと、彼はピエロになった。
これで醜くない。気味悪がられない。みんな僕を見て笑ってくれる。
彼は安心したように鏡をポーチの中に仕舞い、左側に置いてあった白のチューブに手を伸ばした。蓋のないそれをどうしようか迷っていると、左手の手首の傷が目に入った。
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