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「‥‥って言っても、すぐには許してもらえないでしょうけど‥‥‥」
「許す?‥‥何を許すんですか?」
頭を上げた佐藤と目が合うと、神戸はまた自分の正面の机に視線を戻した。
「僕が昨日、神戸先生にしてしまった事です」
「‥‥昨日?ああ‥‥‥僕は初めから何も‥‥佐藤さんに怒ってなど‥‥‥」
「じゃあ、何で神戸先生は僕にそんな態度をとるんです?」
「‥‥後ろめたいからです」
「何に対して?」
「僕自身に対して‥‥‥」
一向に進まない話を半ば諦めて、佐藤は持っていた紙袋を机に上げた。またしても神戸はびくっと驚く。
「これ、昨日のお詫びです。サンドイッチなんですが‥‥神戸先生好きですか?」
一瞬だけ紙袋を見ると、また正面に視線を向けた。
「‥‥パンは好きです」
「そりゃ、良かった」
ガサガサ音を立ててサンドイッチの包みを出し、神戸に渡した。
「コーヒーは飲みます?」
「こ‥‥ひ‥‥?」
怯えた目で佐藤の手元を見ると、蓋付きの紙カップがある。
神戸のその様子から、佐藤はカップの蓋を開けて中を見せた。黒い液体で見た目はおいしそうではなかったが、とてもいい香りがする。
「とりあえず置いておくので、飲みたかったらどうぞ」
「‥‥ありがとうございます‥‥‥」
決して目をじっと見ることはなかったが、神戸は少しずつ佐藤の方を向くようになった。
「僕もここで食べていいですか?」
もう食べる気でいた佐藤は既にサンドイッチを手にしていた。
「‥‥はい。どうぞ‥‥」
言い終わるか終わらないかで、佐藤はあぐっと大きな一口でサンドイッチに齧り付いた。その様子を見て神戸もいただきますと小声で言い、手にしていたそれの包み紙を開けた。ホットドッグのような細長いパンに切れ目が入っていて、そこにハムやレタスやトマトが挟まっている。神戸は小さく一口齧った。
「‥‥ほうでふ?ほひひいへほ?」
口いっぱいに頬張った佐藤は何言っているのか分からない。
「え?」
パンを食べただけの神戸は聞き返した。佐藤はもう一つのコーヒーで口の中のパンを流し込んだ。
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