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佐藤にはあまり縁のなさそうな、そんな響きに逆に興味を持ったらしい。
「はい‥‥でも、佐藤さんはあまり興味を持たないかと‥‥」
佐藤は一瞬ドキッとした。
「どうしてです?」
「ビー・ロビンの‥‥教えみたいな言葉が書いてあるので‥‥」
「どんな?」
自分がピエロの真似事を良く思っていない事を、この人は理解できているのか、と佐藤は思った。
神戸は見せようかどうしようか迷っていたが、じっと見つめる佐藤の視線に負けてそのページをパラッと開いた。
「‥‥これです」
いじめられっ子がいじめっ子に本を差し出すかのように神戸はびくびくしている。いじめっ子、佐藤は手帳を奪うかのように勢い良く持った。そして、下を向いてそれを読み始めた。神戸は暫くの沈黙が怖くて、またコーヒーを口にした。
ーーニガイ。これからの僕の人生はこれよりも、もっと苦いのだろうか?その苦さに僕は堪える事ができるのだろうか?
そんな事を考えていると、佐藤は急に頭を上げた。
「何だ。これ‥‥神戸先生の事じゃないですか」
「え?」
佐藤のふいの言葉に神戸は瞬きを数回した。
「子供を愛しているし、ピエロになってみんなを笑顔にさせて、医師になって人を救おうとしてる‥‥‥。あと、手の平絵本なんて物考えるし、医者になってる。今はまだでも、いつかは奇跡を起こすんじゃないんですか。神戸先生なら‥‥」
佐藤は一気に唱えるようにそう話して隣の神戸を見た。彼は静かに目を閉じている。顔には今通ったばかりだと思われる涙の跡があった。
「‥‥泣いているんですかっ!」
思わず大きい声が出た。その佐藤の声に神戸は驚き、謝った。
「すみません‥‥‥すみません‥‥‥」
「ああ。別に怒った訳じゃなくて‥‥びっくりしただけですよ」
この、神戸という男の特異性には本当に驚かされる‥‥が、面白い。などと佐藤は思っていた。
「‥‥‥その他って何が書いてあるんですか?」
パラパラと勝手に他人の手帳を捲り始めた佐藤。
「‥‥っ!」
返して下さい、と言わんばかりに神戸の手が伸びた。佐藤はいじめっ子のように手帳を高く上げた。何度か取ろうと試みたが、その手は全て躱されてしまう。神戸は諦めて正面を向いた。
「‥‥‥‥‥」
目をキョロキョロさせて、さっき流した涙を手で拭っていた。すると目の前に自分の手帳がひょっこり顔を出した。
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