希 望

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「かんべせんせーっ!」  菜乃香は待ってました、と言わんばかりに叫んだ。 「おぉっ、菜乃香ちゃんはいつも元気だね」 「うん!先生は?」 「元気だよ。菜乃香ちゃんに負けないくらいにね」  神戸は左手で拳を作って、力瘤を見せるような素振りをした。 「あー菜乃香の方が元気だもん!」 「おっ?本当?じゃあ、お胸さんに聞いてみよう!」 「はい!」  菜乃香は着ていたパジャマを勢い良く捲った。神戸は聴診器を耳にセットし、彼女の胸に当てた。 「うん、分かったよ。ありがとう。じゃあ今度はお背中さんだ」  菜乃香は笑いながら背中を神戸に向けた。 「‥‥そうか。お胸さんは今日も菜乃香ちゃんのために頑張ってるって」 「お胸さん泣いてた?」 「ううん。笑ってた。もう少しで良くなるよって言ったら、お胸さん笑ってた」 「よかったぁ!」  菜乃香の笑顔につられて神戸も笑った。カルテに何やら書き込む神戸を見て菜乃香はまた口を開いた。 「あ、ミミズさんだ」 「え?ミミズさん?」 「だって、ほらぁ」  菜乃香はカルテを指した。ああ、と神戸は頷いて返した。 「いいや、これはゲジゲジ君かもしれないよ?」 「えぇー、ゲジゲジ君?」 「先生のゲジゲジ君」  菜乃香はキャハハッと笑った。 「あー笑ったな?じゃあ、今度はその大きなお口さんを見ちゃうぞ?」 「クスッ」 その二人のやり取りに笑った医師、坂崎は一ノ宮に睨まれて咳払いをした。 「ゴホッ‥‥」  その間に口の中や目などを見終わった神戸は菜乃香の頭を撫でた。 「はい。菜乃香ちゃん、良くできました」  えへへと笑って、ふと周りの医師に目を向けた。 「かんべせんせえ、この人たちなぁに?」  気にはなっていたらしく、小さい菜乃香の指は丁度一ノ宮を指した。 「そうだった。今日は菜乃香ちゃんのお胸さんを治してくれる先生たちを紹介しに来たんだ」  神戸は隣の一ノ宮を手の平で指した。 「こちらが一ノ宮先生。とっても優しい先生だ」  その一言に一ノ宮は苦笑したが、すぐに営業スマイルに切り替えた。 「菜乃香ちゃん、一緒に頑張りましょう」  そう言うと一ノ宮も頭を撫でた。 「で、こちらが、坂崎先生」  丁度ベッドの正面に位置していた坂崎は軽くお辞儀をした。 「こちらが吉岡先生」
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