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入院から一週間、菜乃香はすっかり誰とでも仲良くなっていた。
自分より重い病気の子には病室まで遊びに行って折り紙を教えてあげたり、本を読んであげたりしている。
「すみません、すっかり遅くなりました」
入り口で佇む澤見に声をかけたのは菜乃香の母親だ。澤見は振り返って笑顔で首を横に振った。
「いいえ、慌てなくても大丈夫ですよ、お母さん。菜乃香ちゃん今絵本に夢中だから」
菜乃香の母、優子は澤見が見る方に目をやると、手の平を開いて声を出すだけの菜乃香がいる。
「絵本?」
優子は何も持たず、ただひたすらに何かを読む菜乃香の姿を不思議に思った。
「頭の中の絵本って言って、自分の思うように物語を作ってお話するんです。子供たちに人気な絵本です」
「まあ‥‥子供は色々な遊びを考えるのね。でも、楽しそうね」
優子はそう話してから、ふうっと息を整わせると思い出したように手をポンと打った。
「そうそう遊びで思い出した。これ、みんなにと思って」
持っていた紙袋から沢山の折り紙を取り出し、澤見に見せた。
「まあ!どうしたんですか?こんなに!」
「いえね、学校でお見舞い代わりにもらって‥‥家にあってもと思って。みんなで使って下さい」
紙袋ごと澤見に渡すと休む事なく、優子は動いた。
「今のうちにベッド回りを整理しておかなきゃ‥‥‥」
ぶつぶつそう言うと、優子は軽く澤見にお辞儀をし、廊下を歩いて行った。
「とも君、菜乃香トイレ行って来るから待ってて」
母の優子が来ていた事に気付かず、菜乃香はトイレに向かった。廊下を出てプレイルームの斜め向かい、ナース室の反対側にトイレがある。
だが、病院のトイレは暗くて広くて六歳の子供には怖い場所だ。菜乃香は辺りの様子を窺いながらそろそろ足で近付いた。
「‥‥‥おめでとう」
廊下に響く男性の低い声に菜乃香はびくっと反応し、出っ張ったトイレ前の壁から覗くようにずっと先を見た。
突き当たりの階段付近に白衣を着た二人と、ひょろっともやしのような色白の男性が話をしている。
「原告側の控訴も棄却されたそうです。これで無罪放免ですよ、神戸先生」
白い髪をオールバックにした、いかにも教授のような出で立ちの大柄の男性にもやし男は背中を叩かれ、前後に揺れた。
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