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その瞬間、アスティスの思考は目まぐるしい勢いで動き回った。
踞るティルアの後方で必死に考えを巡らせるアスティスが取った最善だと思われる行動は――
「……なるほど、背中は届かないからな、そしてその怪我だ……自力で洗えなかった――そういうわけだな」
鎮まれと言い聞かせながら回転させた思考はどうにかこうにか成功したらしい。
頷くティルアを視界に入れて、アスティスはふうと盛大な溜め息を吐いた。
「……なら俺が洗ってやる。
立てるか?」
アスティスの言葉にティルアはゆっくりと首を縦に振り、壁面を支えに立ち上がった。
拍子に白いうなじからつうっと流水の線が描かれる。
華奢な肩口からすうっと伸びる弓の曲線のような美しい腰のラインと鍛え上げられたすらりとした大腿が視界に上がると、アスティスの理性はまたぎりりと崩壊の音を上げる。
寒さからか、前に立つティルアの身体がぶるりと震えた。
それを合図にシャワーのコンクを捻るとすぐにも熱い湯が注がれ、周囲を湯気で染めていく。
深呼吸を一つしてから、アスティスは海綿スポンジに石鹸を含ませた。
むくむくと泡立ってきたところで、そっと首筋にスポンジを滑らせる。
ぴくっとティルアの身体が動いた。
「ティルア……動くな」
アスティスは左手でティルアの腰に後ろから腕を回した。
「ひゃ……あっ!」
「――――っ、変な声を上げるな」
「……っ、だって」
浴室に取り付けられている鏡が側面で本当によかったとアスティスは思った。
そうでなかったのなら、不様な顔をティルアに見られていただろう。
「ティルア……君は建前上は男で通していても、身体は女の子なんだぞ……俺の理性がもたない。
頼むから大人しくしていてくれ」
まだ湿ったままの傷口に泡が這う。
「――――!」
「痛むか?」
身体を強ばらせるティルアの腰をしっかりと支えながら優しく撫でていく。
ティルアは身体を小刻みに震わせて痛みに堪えているようだった。
「んっ……ア、アスティス――男の理性というものは――女の身体を見たらなくなるものなの、か?」
「…………いいからっ、いいからもう黙ってろ」
甘い吐息混じりに出されたティルアの言葉を耳にしても、処理することができない欲を抑え付けている自分に拍手を送りたいとアスティスは思った。
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