触れられぬ傷と過ち

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. 葉山課長の頬が微妙に腫れているのは、何を隠そう私のせいだ。 全ては、私が彼にふと訊いてしまった、あの言葉のせいだった。 ――― どうしてあなたは、私を抱いてくれたの? そう問うと、彼は爽やかな笑顔でこう言い返してきた。 ――― 理由なんてないよ。男が女をたまに無性に抱きたくなるのは本能だろ? そこにたまたまアナタがいた。ただ、それだけのことだよ。 ――― それ……だけ? ――― もしかして……俺がアナタに、脈があるとでも思っていた? ――― お、思うわけないじゃん!! 馬鹿にするなっつーの!! その言葉と同時に、思わず手が出てしまったというわけだ。 理由は何にせよ、手を上げるなんて良くないことだ。 それは分かっているけれど、手を上げられるような発言をする方にも、多少なりの原因はあるというものだ。 見事に彼の頬にヒットした顔面ビンタ。 それまでは、本物の恋人同士のように甘い時間を過ごしていたというのに、私は急ぎ足で部屋から逃げるように去った。 それにしても、あんな言い方……。 100%根に持たれていると思って、間違いない。 .
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