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身体の関係を持ったからといって、妙に気まずくならずに済んだのは良かった……が。
この先、どんな風に接していくべきなのか。
そんなことを思い悩んでいると、甘い香りがふわっと鼻を擽った。
侑香ちゃんの香水の匂いだ。
「おはようございます、春華さん。」
「あ……侑香ちゃん、おはよう。」
一見、いつもと変わらない笑顔。
けれども何故か違和感を抱いてしまったのは、5年という付き合いからか。
どことなく、空元気のような気がして……。
「もしかして……清和堂の撮影、上手くいかなかった?」
「いいえ、そんなことないです。無事に終了しました。」
「そう……?」
「藤川さんが今日の10時頃に、改めて係長と課長に御挨拶に来て下さるみたいです。」
「うん、分かった。葉山課長にも伝えておくね。」
どうやら、仕事絡みではなさそうだ。
となると……裕樹とのこと?
いやいや……プロポーズされたはずだから、幸せそうな笑顔が零れることはあったとしても、落ち込む必要なんてないはずだ。
けれども、私は気づいてしまった。
侑香ちゃんの薬指にはまだ、いつものファッションリングがはめられたままだということに。
それがどういう意味なのかは分からないけれど、侑香ちゃんならエンゲージリングを喜んで見せてくれると思ったので、意外だった。
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