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「それと……」
業務連絡を終えて、自分のデスクへと向かおうとする私を、侑香ちゃんが躊躇いがちに止めてきた。
悩ましげな顔をしながら。
「ん?」
「あの……私、春華さんに話があるんです。」
「私に?」
「昼休みに、少し時間いただけますか?」
「うん。それは別にいいけど……」
話って……仕事のことだろうか。
今ここで訊き出すこともできるけれど、私の返事を聞くと彼女は小さく御辞儀をして、自分のデスクへと戻って行ってしまった。
それから小一時間ほど自分の仕事に没頭していると、視界に見覚えのある大きな手が入り込んでくる。
私の身体を弄んだ、やたら色っぽい指先。
「そろそろ、応接室に行こうか。」
「あ……はい。」
見上げると、仕事モードの葉山課長。
シルバーフレームの眼鏡が、偽りの誠実さを演出している。
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