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野木部長は、昔から私のことを何かと心配してくれている。
それはさっき彼が言ったとおり、この部署の中でいちばん付き合いの長い間柄だからだろう。
それ以上の感情は、彼にはない。
一度たりとも抱いたことはない……が。
「……あなたと野木さんって、もしかして過去に訳あり?」
「どうして?」
「何となく、そう見えただけ。」
勘が良すぎるにも程がある……。
この人、何なの……?
もしかして、本業は探偵かなにかですか?
嘘を吐いても誤魔化しても、きっとすぐに見破られてしまう。
この人の、その瞳は……正直言って苦手だ。
「……確かに、告白されたことはありますけど。5年以上前の話です。」
「へぇ……。意外とモテモテだね、オネーサン。」
「オネーサンいうな!」
私の言葉に、彼はニヤリとしながら冷やかすように口調で言ってくる。
そんな馬鹿な言い争いをしながら、漸く着いた応接室。
扉をノックして開けると、中には既に藤川さんの姿があった。
目が合うと、大人びた穏やかな微笑みを浮かべてくれる。
「遅れてしまって申し訳ありません。こちらが桃井課長の後任の、葉山……」
初対面同士のふたりを紹介しようとした私の言葉を掻き消したのは、葉山課長本人だった。
自然と洩れてしまったような、そんな類の低い声が宙を舞う。
驚きの表情と共に。
「もしかして……薫さん?」
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