触れられぬ傷と過ち

13/26
前へ
/624ページ
次へ
. その問いかけに、ふっと小さく微笑みを見せる藤川さん。 ずっと前に貰った彼女の名刺。 確か下の名前は、薫さんだったような気がする。 この人に合った素敵な名前だなと、そんなことを暢気に考えていたことを思い出した。 「……やっと気づいた。お久しぶりね、悠君。」 「久しぶり……って、こんなところで何してんの? どうして横浜に……っていうか、清和堂の社員だったの!?」 「話していなかったっけ?」 「聞いてないって。マジで驚いたしー。」 どうやらふたりは顔見知りのようだ。 しかも葉山課長の口調からすると、かなり深い関係の。 前に葉山課長の話題になった時、藤川さんは少しもそんなこと言っていなかったのに。 するとその辺りの弁明を、彼女は始めてくれた。 「彼のことは噂でしか聞いていなかったので、苗字は同じでも、まさか本人だとは気付かなくて。何も言わずに申し訳ありません。」 「そうだったんですか……。」 「実は私たち、共通に知り合いがいまして、それで何度か顔を合わせたことがあるんです。」 「共通の知り合い……ですか。」 「ええ、彼がまだ大学生だった頃に。」 .
/624ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22908人が本棚に入れています
本棚に追加