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その言葉に、葉山課長の表情が固まったような気がした。
気のせいかもしれないけれど、本当に僅かな一瞬だけ。
しかしそれは、すぐに塗り替えられる。
完璧すぎる彼の仮面の微笑みに。
「いつからこっちに?」
「もうすぐ1年よ。まさかあの悠君が、こんなに立派になっているなんて思わなかったわ。」
「ふっ……だって、薫さんと知り合ったころは、無茶なことばかりしていたしね。」
完全に仕事中だということを忘れて、昔話に花を咲かせている様子。
ふたりの会話に入っていけない私は、ただの傍観者となっていた。
「それにしても、昔と全然変わらないね……薫さん。」
「それって褒め言葉?」
「勿論。いつまでも綺麗だなって。」
「あらま、御世辞まで言えるようになっちゃって……成長したのね。」
「まあ……こう見えて、少しは大人になりましたから、ね。」
そう言いながら、彼は尚も穏やかに微笑む。
紳士的な言葉を並べながら。
何よ……私には、意地悪なことばかり言うくせに。
藤川さんにはこんなに優しいなんて不公平だ。
その笑顔の裏で、彼が大きな痛みを感じているとも知らずに、不満は募っていく一方だった。
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