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仕事モードに片足を突っ込みかけていると、会議室の扉が軽くノックされた。
もしかして午後から、誰かがここを使用するつもりだったのだろうか……と。
急いで椅子から立ち上がると、開いた扉の向こうには葉山課長の姿があった。
「橘さん、やっと見つけた。」
「へ……?」
「探していたんだけど、携帯繋がらなかったから……さ。」
そう言われて、私は自分の携帯を確認する。
ボタンを押しても反応せず、画面は真っ黒になったままだった。
「……電源切れてる!」
「それじゃあ、携帯電話の意味がないね。橘さんはそそっかしいなぁ……」
一見、爽やかな笑顔と共に発せられた言葉の中に、実際は嫌味な本音が込められている。
そんなことに気づけるのは、この会社では私くらいのものだろう。
「……すいません。今すぐ戻ったほうが良いですか?」
「できればね。」
「わかりました、すぐに行きます。」
半分以上残っていたサンドを、再び袋の中にしまって鞄へと戻す。
後片付けは任せて下さいと言ってくれた侑香ちゃんに甘えて、私は葉山課長と制作部へと向かった。
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