触れられぬ傷と過ち

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. 「1日で、随分と心変わりしたもんだな。」 「……え?」 「昨日の夜は、あんなに未練タラタラだったのに。」 先に階段を下り始めていた葉山課長は、後ろにいた私をニヤリと見上げてくる。 恐らく、私と侑香ちゃんの会話の、一部始終を聞いていたのであろう。 「また、立ち聞きですか?」 その言葉に、彼は一瞬ムッとしたような顔つきに変わる。 そして、ぶっきらぼうに答えた。 「人を盗み聞きの常習犯みたいに言うな。通りかかったら偶然聞こえてきたんだよ。」 「……。」 本当はそんなこと、どうだっていい。 気にかかったのは別のことだ。 「……元彼の新しい恋人って、西尾さんのことだったんだ。」 「そう、ですけど……。」 「あなたも案外、辛い想いをしてきたんだね。」 「もう……終わったことですから。」 何故だろう……。 この人には、知られたくなかった。 私が関係を続けていたのは、侑香ちゃんの今の恋人だということを。 後輩の恋人と、そういう関係を平気で続けられる、そんな女に思われるのが嫌だった。 事実でしかないのに。 .
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