22812人が本棚に入れています
本棚に追加
/624ページ
.
この件に関してはこれ以上、触れないでいて欲しい。
そう思って強引に話題を変えた。
「で……私を探していた理由は……?」
私からの問いかけに、葉山課長は用件を思い出したかのように、パッと表情を変える。
それが彼の、仕事モードへの切り替えのサインだということに、最近になって漸く気付き始めた。
生意気な年下男から、頼り甲斐のある上司の顔へと変わる。
「あ、そうそう……和雑貨の店の件でクライアントの大島さんから連絡あった。
村田さんの提案してくれたプランでオッケー出たから、明日から本格始動だ。」
「え、本当ですか!?」
ずっとトラブル続きで、遅れ気味になっていた依頼だった。
特にミシマ不動産との一件では、この人の力添えがなければ、今も進行具合は難航していたかもしれない。
「忙しくなるから、本腰入れていこうな。」
「……はい。」
あまりの爽やかさに、目が眩みそうになった。
頷かざるを得ない、眩しすぎる笑顔。
私の返事を確認すると、彼は再び前を向いて歩き出す。
その背中に向かって話しかけた。
「それよりも……藤川さんと課長がお知り合いなんて、驚きでした。」
「俺も……。もう二度と、会わない人だと思っていたから。」
私の言葉に、葉山課長は振り返ることなく、前を向いたまま返事をしてくる。
少し切なげに響く、言葉と共に。
.
最初のコメントを投稿しよう!