動き出した時計

3/33
22846人が本棚に入れています
本棚に追加
/624ページ
. 11月末の深夜。 外もかなり冷え込んでいる。 この状況は、今の葉山課長にとって良くないことだと百も承知。 取り敢えず、安静な場所に連れて行かないと……。 「……部屋の中まで、歩けますか?」 「……むり………」 「……。」 甘ったれるな……! 普段の私なら、それくらいの毒を吐いていたに違いない。 けれども、今にも倒れてしまいそうな足取りの彼を、放っておくことなんて出来なかった。 「……じゃあ、お邪魔しますよ?」 念のため確認してみたが、彼からの返事はない。 その代わりに、私に支えられながらも部屋に戻ろうとしている足取りに、それが彼からのオッケーサインだと捉えた。 初めて踏み入れた課長の部屋は、私の住むワンムームのマンションより遥かに広々としていた。 軽く見積もって3LDKはありそうだ。 あちこち徘徊するのも気が引けるので、私の肩で項垂れている彼に訊いてみる。 「……寝室、どこですか?」 「……。」 またも質問は無視されてしまったけれど、その答えは彼の重い足取りが教えてくれた。 玄関からいちばん遠くの扉の向こう。 洋室のど真ん中に置かれていた大きなベッド。 それ以外にあるものは、ガラス製の小さなテーブルだけだった。 .
/624ページ

最初のコメントを投稿しよう!