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11月末の深夜。
外もかなり冷え込んでいる。
この状況は、今の葉山課長にとって良くないことだと百も承知。
取り敢えず、安静な場所に連れて行かないと……。
「……部屋の中まで、歩けますか?」
「……むり………」
「……。」
甘ったれるな……!
普段の私なら、それくらいの毒を吐いていたに違いない。
けれども、今にも倒れてしまいそうな足取りの彼を、放っておくことなんて出来なかった。
「……じゃあ、お邪魔しますよ?」
念のため確認してみたが、彼からの返事はない。
その代わりに、私に支えられながらも部屋に戻ろうとしている足取りに、それが彼からのオッケーサインだと捉えた。
初めて踏み入れた課長の部屋は、私の住むワンムームのマンションより遥かに広々としていた。
軽く見積もって3LDKはありそうだ。
あちこち徘徊するのも気が引けるので、私の肩で項垂れている彼に訊いてみる。
「……寝室、どこですか?」
「……。」
またも質問は無視されてしまったけれど、その答えは彼の重い足取りが教えてくれた。
玄関からいちばん遠くの扉の向こう。
洋室のど真ん中に置かれていた大きなベッド。
それ以外にあるものは、ガラス製の小さなテーブルだけだった。
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