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ベッドの脇に置いてあった携帯を見て、私の腕から逃げるように身体を背ける。
そこら中に散らばっていた服を一式拾い上げながら、まだベッドから立てずにいる私に構うことなく、裕樹はここに来たときと変わらない、きちんとした身なりを整える。
つい今まで誰よりも近い関係で繋がっていたはずなのに、その姿はまるで知らない男の人のようだ。
そんなことを考えていると、僅かに鳴り響いた携帯の音に、素早く裕樹が反応した。
「……もしもし侑香、どうかした? え……俺の部屋、来てくれてるの?」
私には決して向けられることのない、明るい声のトーン。
自分が裕樹にとって唯一の存在でなくなってしまったからこそ、気づいてしまったこともある。
「へえ……侑香の料理、マジで楽しみ。え? あ、急いで残業終わらせて早く帰るよ。」
本命の彼女と、元恋人というよしみだけで続いている馴れ合いの関係の女と。
重ねられる身体は同じでも、そこには目に見えて大きな違いがあることを。
「……彼女?」
「そうだけど。」
「……彼女には、随分と優しいのね。」
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