動き出した時計

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. 課長をベッドに仰向けに寝かせ、まずは自分の鞄の中をあさった。 化粧用のポーチの中に常備してある冷えピタシート。 仕事中に没頭しすぎたとき、気分をリラックスさせるのに使っているのだ。 ここにきて初めて、本来の使用目的を果たすことができた。 額にかかる髪を上げ、彼のおでこにシートを貼った。 その時に感じた体温が、尋常じゃないくらいに熱い。 「……救急、行きますか?」 「……イヤ。」 「嫌、って……。子供の我儘ですか!?」 ……って、病人を相手に怒鳴っちゃいけないな。 動けないほど辛いのなら、今日は一晩ゆっくり寝て、明日また病院に行けばいい。 そう思い、苦肉の策として常備薬を取り出した。 偏頭痛が酷いときに飲んでいるものだが、『発熱時』とも記載しているので、何もしないよりはマシだろう。 「じゃあ……薬、飲んで下さい。」 「……薬、キライ。喉に引っかかって死ぬ……。」 「……。」 人間、そんなに軟にできてないっつーの。 この男、本当に『葉山課長』なのだろうか。 熱の苦痛は、人の性格をこんなにも変えてしまうものなのだろうか……? .
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