動き出した時計

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. 何としてでも薬は飲んでもらおうと、冷蔵庫の中から水を取り出す。 そのままだと消化に良くないと思ったので、そこに何故か大量に入っていた『2時間キープ』とパッケージに大きく掲げられていた飲むゼリーを一緒に準備した。 再び彼のもとへ戻り、完全に幼児化していることを前提に、優しく話しかけた。 「……お薬、飲んでください。ゼリーと一緒に飲み込めば、大丈夫ですから。」 「……。」 「早く良くならないと、来週からはもっと大変なことになりますよ?」 「……。」 熱に浮かされながらも、どうやら仕事人間な一面は残っていたようだ。 来週からの更なるハードスケジュールを思い出したのか、眉間にしわを寄せながら、無言でゆっくりと身体を起こす。 それを傍で支えながら、飲むゼリーと小さな薬を2錠渡した。 上目づかいで見据えてくる虚ろな瞳。 「……飲まなきゃ、ダメ?」 「治りたかったら、飲んで。」 「……うん。じゃあ、飲む。」 そこには最早、葉山課長の面影はなかった。 きっと彼は、課長のそっくりさんに違いない。 自分に何度も言い聞かせて、思う存分彼を甘やかしてみることにした。 .
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