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家に着き、ポストの中を確認した。
そこには王子に渡した鍵が入っていた。
王子にも悪いことをしてしまった。
今度、また店に顔を出しておくか……。
彼との一件を忘れたわけではない。
むしろ、忘れられるわけなんてないけれど、いつも通り振舞うことが、私が許された優しさなのだと思う。
部屋に戻りシャワーを浴びて、濡れた髪をタオルで乾かしながら、クローゼットの前で立ち止まる。
あれ……
これって、もしかしてデートってことだよね。
記憶をたどれば、私は裕樹と恋人として別れてから、デートというものした覚えがない。
王子とは何度も遊びに行っていたけれど、それは高校時代から頻繁にあったことなので、デートという言葉は似つかわしくない。
それに葉山課長と私の関係は、『友達』ではない。
上司と部下。
そして、都合のいい時だけ抱き合う、身体だけの関係。
人には言えない関係だった私たちが、こんな昼間から外で会う約束をしたことに、深い意味はなくても違和感を抱いた。
楽な恰好にしようと思ったけれど、目についたワンピースを手に取る。
張り切っているわけではないけれど、恐らく私服もお洒落であろう課長に、見劣りするような恰好はしたくなかった。
ただ、そんな『女』としての小さなプライドだった。
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