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「今日は午後から、社内コンペのプレゼンがありますから、葉山課長にも同席していただきます。
このプロジェクトは新規のものなので、私と課長が主に中心メンバーになると思いますので。」
そう言いながらエレベーターに乗り、私は鞄からクリアファイルを取り出す。
2週間ほどは引き継ぎがてら、彼に制作部のノウハウを教え込む役割に任命されていたのだ。
そのファイルをぱらぱらと捲りながら、彼はふと呟く。
「何かとお手数をかけますが、宜しくお願い致します。」
「あ、いいえ……こちらこそ……」
前科が前科だけに、警戒心だけは持って接していこうと心に刻んでいた。
しかし課長という肩書きを背負った彼はあくまで、実年齢以上に大人を感じさせる雰囲気で。
あんなに激しいキスを求めてきた男とは、どう見ても同一人物とは思えなかった。
もしかしてこの男、二重人格か……?
「……そんなに見つめたら、ここでするぞ。」
「!?」
まさかの爆弾発言に、急いで後ずさりしてエレベーターの隅へと逃げる。
ヤバい……狭い密室!
逃げ場所がないっつーの!
激しく動揺してしまう私を見ながら、彼は呆れながら溜息交じりに言ってくる。
「スーツを着ている間は、俺はあなたの上司としてしか接するつもりはない。
だから、そんなにあからさまな警戒心見せてくるな。やり辛い。」
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