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それから車が市内に入ったくらいに、どこからともなく携帯のバイブ音が聞こえてきた。
「……電話、鳴ってない?」
「へ……あ、私のです。」
そう答えて、彼女は携帯を鞄から取り出して画面を確認すると、急に動きを止めた。
どうやら、何かを躊躇っているようにも見える。
「出ないの?」
「……じゃあ、少しだけ。」
そう言って彼女は電話に出た。
聞こえてくるのは、「うん」と小さく頷く声だけ。
友人関係とも仕事関係とも捉えらない会話の相手は、恐らく…………。
「すいません……途中で、下してもらえますか?」
「……別にいいけど。どこがいいの?」
「横浜駅がいいです。」
「こんな時間から、電車に乗って出かけんの?」
「……。」
少し意地悪な質問だっただろうか……。
何も言い返してこない姿が、俺が予想していた答えのようなものだった。
懲りないな、この人も……。
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