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誰にも言えない情けない本音を堪えて、俺は店を出ようとした……が。
開きかけた扉の向こう側で、思ってもみない人物と遭遇した。
それは、ついさっき横浜駅で別れたはずの橘さんだった。
「こんなところで、何してんの?」
「……それは、こっちのセリフです。」
「今夜は、男のところに泊まるんじゃなかったの?」
「……。」
「あ……もしかして、喧嘩しちゃったとか?」
冷やかすつもりで言ったのに、彼女の顔は徐々に曇っていく。
そして、力なく返事をした。
「……喧嘩のほうが、よっぽど良かった。」
その言葉だけで、全てを悟った。
遅かれ早かれ、そういう時期は来ると思っていたから。
明らかに強がりながら、無理に笑顔を繕うとしている姿が、痛々しくて見ていられない。
「彼……結婚するみたいなんです。今の恋人と。
だから、もう会えないって。
私も、ずっと続けられる関係だなんて思っていませんでしたから。」
「……。」
「好きじゃ……なかったんです。私は彼との身体の関係に、ただ癒されていただけ……」
「だったら、どうしてそんな顔するんだ。
本気で愛した相手の幸せを笑って祝ってやれねーのは、あんたに未練が残っているからだ。違うか?」
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