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知ってしまえばいいんだ……他の男を。
身体を重ねることでしか愛情を感じられないような恋愛なら、すぐに忘れられる。
壁に押し当てた彼女の細い身体。
目の前にある唇を強引に奪う。
微かに香るアルコールが、俺の理性を少しずつ狂わせる。
「今夜は……前みたいには終わらせない。別れた男の代わりにお前を抱いてやる。」
「……。」
呆然と見上げてくる彼女の手を掴み、俺は店の前を離れた。
こんなところ、輔にでも見られたら面倒だと思ったから。
「……そうと決まったら、ほら……行くぞ。」
「ちょ……まだ、決まっていないってば!!」
「ギャーギャーうるせーよ! アンタは黙って俺について来い!」
普段は遣わないような荒い口調で言うと、彼女は驚いたのか、急に黙り込んだ。
感情がコントロール出来ないなんて、俺もまだまだ子供だ。
彼女を乗せた車の中は終始無言で、ラジオから流れる切ない恋愛バラードの曲が、更に雰囲気を重たくした。
暫くそのまま走らせていると、目についたのは見覚えのあるラブホ。
ごく最近、同じように彼女を連れてここに来たばかりだった。
逃がさないように……けれども怖がらせないように、その手をそっと握りしめる。
まるで、本物の恋人同士のように。
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