偶然の再会

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. その瞬間に流れた気まずい空気を察知したのか、彼女は素早く着替え始めて、逃げるようにして部屋を出て行った。 残された俺は、疾風の如く起きた出来事に、ただ唖然とするだけだった。 「つーか、本気で引っ叩くなんて……容赦ないオネーサンだな。」 ジンジンと頬に残る痛みを感じながら、俺はそのまま仰向けに寝転がった。 まだ彼女の温もりが残っているシーツに身体を預け、瞳を閉じる。 ――― ゆーちゃんの愛は偉大だね。私が独り占めしちゃってもいいのかな……? いつかの、可南子の言葉を思い出す。 初めてのデートの夜、外泊許可をもらって泊まった安いラブホテル。 壊れそうな程に柔らかな彼女の身体を抱きしめながら、この幸せな時間が永遠に続けばいいとさえ思った。 女を抱くのは慣れているし、場数だって熟してきた。 けれども、彼女が俺に与えてくれたのは、全く違う感情だった。 悦び、苦しみ、切なさ、そして……愛しさ。 他の女が相手じゃ、あんなセックスは出来ない。 可南子じゃなきゃ、身体は満たされても心は空っぽのままだ。 そう思っていたのに……。 ついさっきまで隣にあった笑顔が、ふと頭に過った。 .
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