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「葉山課長、その顔どうかされたんですか!?」
出社するや否や、5年目の中村君が驚いたように話しかけてくる。
ちなみに中村君は、例えるなら「忠犬ハチ公」と言ってもいいくらい、俺に対して忠実だ。
そんな彼をからかうのも好きだが、忠実すぎるが故に、冗談を本気だと捉えてしまうことが多々あるのが難点だ。
前にも「朝までかかってでも仕上げておいて」と頼んだ書類を、会社に泊まり込んでまで仕上げていたことがあった。
その忠誠心、仕事内容でも活用出来たらいいのに……。
「ああ、これね……。昨日の夜、たまたま出会った肉食獣と戦った痕跡だよ。」
頬に貼った湿布の理由。
本当のことは絶対に言えないが、上手く誤魔化す方法なんて幾らでもある。
けれども、すぐ近くに橘さんの姿があることを知っていて、俺はわざと彼女に聞こえるように言ってやった。
「肉食獣……ライオンにでも、遭遇したんですか?」
「いいや。ライオンよりもっと獰猛な野獣だった……」
「なっ……!?」
予想通りの反応。
反射的に俺のほうを見た彼女は、顔を真っ赤にしている。
ここで墓穴のひとつでも掘ってくれたら面白かったのだが、それでも瞬時に仕事モードに切り替わるあたりは、やはり彼女らしいと思う。
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