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深入りしすぎず、それでも時に寂しくなった心を埋め合わせるだけの存在。
特別な感情がないからこそ許される関係。
そんな関係に甘んじようとしていた俺を、応接室で待っていたのは、思いがけない人物だった。
「もしかして……薫さん?」
「やっと気づいた。お久しぶりね、悠君。」
まさか、こんなところで出会うなんて……。
正確に言えば、二度と会わない相手だとも思っていた。
彼女とは昔、可南子の病室で何度も顔を合わせたことがある。
「久しぶり……って、こんなところで何してんの?
どうして横浜に……っていうか、清和堂の社員だったの?」
「話していなかったっけ?」
「聞いてないって。マジで驚いたし……。」
薫さんとの再会は、胸の奥に刻まれている傷跡に痛みを与える。
可南子の面影を、橘さんに重ねてしまっていた俺に対する天罰のように。
可南子……お前、意地悪だな。
そんなことしなくたって、忘れたりしないのに。
俺の心はずっと、お前のものなのに……。
薫さんとの再会。
それは偶然が重なっただけなのか、それとも可南子が巡り合せた運命なのか……。
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