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「葉山課長、お電話ですよ。クライアントの大島さんから。」
「え……あ、ありがとう。」
中村君の声で、現実味のない感覚が正常に戻ってきた。
駄目だな、こんなことで気持ちを掻き乱されるなんて……。
可南子の存在は、まだ俺に強烈な影響を与える。
そんなことを考えながら電話に出る。
相手の大島さんは、和雑貨の店舗設計を依頼してきたクライアントで、橘さんの担当の仕事だ。
けれども予算上の事情でcherrytreeが絡んでくることになり、俺も一緒に担当を任されている。
そして今日も連絡も、その一件についてだった。
村田さんの上げた予算案が無事に通ったとのことで、それを伝えるために橘さんを探す。
後でも良かったのだが、急ぎの案件なので出来るだけ早く知らせて、進めたい業務が沢山残っていたから。
「橘さん、どこかで見かけなかった? 鞄あるから、どこかにいると思うんだけど……」
「だったら多分、会議室じゃないですか? 侑香ちゃんと一緒でしたし。」
電話も繋がらない中、そんな情報を聞いて階段をのらりくらりと上っていた。
使用されていない会議室は扉が開いたままになっているが、いちばん奥の部屋の扉だけは閉まっていた。
中からは誰かの話し声がする。
立ち聞きするつもりはなかったが、その内容が内容なだけに、部屋に入るのを躊躇って動きを止めてしまった。
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