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どんな形であれ、最愛の相手を失うことは辛い。
それなのにドア越しに聞こえる声は、いつもと変わらずに逞しい。
昨日の夜、俺と再会したときは、あんなにボロボロに傷ついていたのに……。
彼女は俺よりも先に、未来のない恋愛に終わりを告げた。
「1日で、随分と心変わりしたもんだな。」
「え?」
「昨日の夜は、あんなに未練タラタラだったのに。」
「また、立ち聞きですか?」
褒め言葉のつもりだったのに……。
彼女はムスッとした表情で言い返してくるものだから、俺も同じように不機嫌に言い返してやった。
「人を盗み聞きの常習犯みたいに言うな。通りかかったら偶然聞こえてきたんだよ。
それにしても、元彼の新しい恋人って西尾さんのことだったんだ。」
「そう、ですけど……。」
「あなたも案外、辛い想いをしてきたんだね。」
「もう、終わったことですから。」
昨日の夜も、似たような言葉を聞いた。
けれども、今の彼女の表情はどこか清々しい。
たった一晩でここまで吹っ切れられたのは、こんな日がいつか来ることを、彼女自身も覚悟していたのだろう。
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