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「そりゃあ、あるよ。こう見えてまだ20代の若者なんだから。」
「だったら、特定の彼女を作ればいいんじゃないですか。言い寄ってくる女性なら、手に余るくらい沢山いるでしょ?」
「それはそれで面倒かな。束縛されるのは好きじゃないし。」
手に余るほどではないけれど……。
俺は後腐れのない相手としか関係を持たない主義だ。
それに、本気の恋愛をするつもりはない。
それにしても、この質問にどんな意味が隠されているのだろうか。
村田さんとの今後の関係について……とか?
すると彼女は、漸く顔を上げた。
真っ直ぐに見つめてくるのは、心を見透かそうとする綺麗な二重瞼の瞳。
「理由は、それだけですか?」
「え……?」
「本当は、忘れられない人がいるからじゃないんですか?」
彼女が村田さんから訊いたのは、もしかして……。
以前、俺が残した意味深な言葉を、彼女はずっと気に留めていてくれたのだろうか。
でも、どうして……。
「私、元彼にもう会わないって言われたあの夜、葉山課長が傍にいてくれて本当に救われたんです。
独りじゃきっと、まだ毎晩泣き腫らしていたと思うから……。
だからもし、あなたが独りで寂しさに耐えきれない時は利用して欲しいです。
あの時の恩返しってわけじゃないけれど。」
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