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食事を終えて向かったのは、いつもと同じ場所。
何の因果か、同じ部屋しか空いていなかったことに、俺と彼女は目配せをしながら小さく笑い合った。
エレベーターに乗りながら、隣にいる彼女にふと問いかける。
「……もしかして、俺の昔のこと……村田さんから訊いたの?」
「少しだけ……です。忘れられない大切な人がいるって。」
そう言って、彼女は先にエレベーターを降りた。
流石に3度目となると、部屋に向かう足取りに迷いはない。
ふたりきりになるとすぐに、彼女を強く抱きしめた。
「……早く、寂しさを埋めてよ。」
そう耳元で囁くと、彼女はその抱擁に応えてくれた。
ぎこちないキスを繰り返し、そのまま勢いでベッドへと倒れ込む。
すると、彼女は遠慮がちにこっちを見てきた。
「あの……」
「ん?」
「シャワー、浴びませんか……?」
「……そうだね。先、行っておいでよ。」
俺の言葉に、彼女は足早に浴室へと向かった。
一人残された空間で天井を仰ぎながら、ぼんやりと物思いにふけた。
こんなことしたって、最後は虚しさが残るだけなのに……。
欲しいものはもう、手に入らないというのに。
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