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伝わらない想いが、こんなにもどかしいとは知らなかった。
こんなに近くにいるのに。本当の恋人のような時間を幾重にも紡いだのに。
私の気持ちが、彼の心を動かすことはない。
そんな現実に負けそうになる。
仕事のように、努力しただけ結果が得られるのなら、どれだけ楽なことだろう……。
「葉山課長、これ……野木部長から預かってきました。」
「あ、ありがとう。そこに置いてくれる?」
「はい。」
仕事に集中している彼の邪魔はしたくなかったので、託された書類をそっと置く。
私も自分のデスクへと戻り、今日中に仕上げる予定の業務に手を付け始めた。
うん……。
やっぱり、仕事に集中しているときは気分が上がる。
順調に進んでいた中、もうすぐ昼休みを挟もうとする目前のこと。
傍に置いてあった携帯がバイブ音を鳴らしながら震える。
届いたのは、一通のメール。
送り主は王子だった。
―― 今度の休みに、飯でも食いに行かないか?
長年募らせていた彼の想いに、私は応えることが出来なかったのに。
それでも王子は、いつもと変わらずに接してくれる。
長く想い続けることが偉いわけではないけれど、そんな彼の態度を見習わないといけないと思った。
自分自身のために。
葉山課長のためにも。
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