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「おいしい! やっぱり、うちのが1番だね。」
「……こら、菫の前で行儀悪いことしないの。」
「だって、揚げたてが美味しいのに……」
「先に着替えて、手洗いしてからにしなさい。」
菫の反面教師にならないよう、私は素直に母の言うことに従った。
2階にある、かつての自分の部屋は、今はもう物置状態で生活感が全くない。
棚に立てかけてあった1冊のアルバムに手をかけると、そこには懐かしい写真が挟まっていた。
高校時代の私と、そして……王子の笑顔。
いつまでも、こんな風にいられると思っていたのにな……。
最近は、顔を合わせるたびに気まずい雰囲気になってしまう。
馬鹿みたいなことで笑い合っていたのが、まるで嘘だったかのように。
「……この頃から、好きでいてくれたんだよね。」
12年間ずっとと言えば、それは違うかもしれない。
王子に彼女がいたことも知っているし、惚気話を聞かされたことも多々ある。
でも、心のどこかでは私のことを想ってくれていて、いつも私のことを見守ってくれていた。
彼のそんな気持ちに応えられない自分に、苛立たしさすら感じる。
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