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壊れた時計と甘い罠
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薄暗い光の中。
重ね合わせる身体に、私は本能のままに絡みつく。
彼の身体の性能を余すことなく知り尽くしているのは、10年近く続く私と彼の関係のせい。
「春華……もう、出しちゃっていいか……?」
「……わたしまだ、イってない……」
そう言いながら彼の動きを必死で止めようとしても、私の言葉なんて全く無視。
最後の力を振り絞るかのように身体を揺らし続けた彼は、ぐっ……と情けない声を上げた。
完全燃焼で尽きた彼と、不完全燃焼で終わられた私。
いつからだろう……。
裕樹がこんな風に、私を置き去りにして、ひとりで快楽の向こうにいってしまうようになったのは。
隣で仰向けになり、荒れた呼吸が徐々に収まっていく。
そんな彼の身体に寄り添い、耳元で甘えるように囁いた。
「……ねえ、裕樹。」
私が呼び掛けると、彼は少し面倒臭そうに返事する。
いつものことだ。
「ん、何……?」
「もう1回……してよ。」
「……あと30分しかないだろ。今日はもう勘弁して。」
「……。」
いつからだろう……。
裕樹との肉体関係が、愛を確かめ合う行為でなくなってしまったのは。
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