22820人が本棚に入れています
本棚に追加
/624ページ
動き出した時計
.
電話で告げられた住所を、そのままタクシーの運転手に伝えた。
時間のせいか道は空いていて、スムーズに目的地へと進んでいく。
窓の外を覗きこむと、そこには夜の暗闇に反射して無表情な自分の顔が映り込んでいた。
到着したマンションは高台の上にあった。
603号ってことは、6階ってことだよね……。
そう思って、エレベーターに乗り込み『6』の数字を押した。
上昇していくにつれ、私の気持ちも幾分か緊張し始める。
血まみれで倒れていたら、とりあえず救急車かな……。
そうなれば警察沙汰にもなるだろうから、事情聴取とかされるのだろうか……。
私の想像の中では、葉山課長はすでに刺されていることが前提だった。
エレベーターを降りて一軒ずつ表札を確認しながら進んでいく。
すると603号室には、ローマ字で『HAYAMA』と掲げられていた。
無事に到着してホッとしたのも束の間、私はすぐにインターホンを鳴らした。
夜中に響き渡る音。
私だったら、不気味すぎて無視しているに違いない…………って、出ないし!
音沙汰のない部屋。
明かりは漏れているのに、物音ひとつしない。
3回インターホンを鳴らしたけれど、課長の応答はなかった。
悪い想像が、ますます膨らんでくる。
緊急事態も考えられると思い、御近所の迷惑にならないように気を配りながら、部屋の扉を叩いた。
すると1分くらいして、漸く中から鍵の空く音がした。
.
最初のコメントを投稿しよう!