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忘れ得ぬ約束
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11月の末、ここ数日で急に冷え込んできた。
特に昨夜はやたら寒くて、異様な寒気を体に感じて目が覚めた。
何となく怠さを感じながらも熱っぽくはなかったので、そのまま仕事に行く支度をする。
午後からは、cherrytreeの現場チェックの立ち会いだった。
電車で鎌倉に向かうために、駅に向かっている途中のこと。
「昨日の夜から、急に冷え込んできたなぁ……」
独り言のように呟くと、横から大きな溜息が聞こえてくる。
浮かない顔をして視線を落としている橘さん。
もしかして、また面倒なことに巻き込まれたのだろうか……。
「はぁ……」
「重い溜息だな。」
「いや……私って、つくづく自分のことしか考えていないなぁって。」
そんな意味深な言葉を吐きながら、表情は曇ったまま。
仕事中はあまり感情を出さない彼女にしては珍しい光景だ。
「そんな顔見せるなんて、あなたにしては珍しいね。」
「……そうですか?」
「ま……あなたのことだから、仕事に差し支えるようなヘマはしないと思うけど。」
でも、少しは気になる。
俺と一夜を共にした翌日でも、こんな顔は見せなかったのに。
彼女の気持ちを捉えているものは、一体何なのだろうか……と。
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