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悲しい逢瀬
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片想いの相手に告白をして、失恋した経験が一度もない。
そんな風に言えば、高飛車な発言に聞こえてしまうかもしれないが、事実は単に恋愛経験が少ないというだけだ。
こういう時、相手にはどんな感じで振舞えばいいのか、本気で悩んでしまう。
何事もなかったかのように接するべきなのか、少し遠慮がちにするべきなのか。
「橘、ちょっといいか?」
「はい。」
「この書類、葉山君に渡しておいてくれるか? 俺、今から出なきゃいけなくてさ。」
そう言って、仕事を託けてくる野木部長。
どうやら私に選択の余地はないようだ。
「……わかりました。」
「って、この世の終わりみたいな顔すんなよ。また葉山と何かあったのか?」
「……。」
「……ふっ。お前、分かり易すぎ。仕事中はもっとポーカーフェイスが上手いくせに、それ以外は本当に抜けすぎだろ。」
その通りだ。
自分でも恋愛に対する不器用さを、つくづく感じてしまう。
気持ちを曝け出せば少しは心が晴れると思ったのに。
残されたものは、苦くて鈍い痛みだけ。
けれども、それを全て受け止めて、私は葉山課長への気持ちと向き合うことに決めたから……。
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